第三章 秋

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現在、人間の寿命は千年とも二千年とも言われている。 ただし、そこまで生きた人間はまだいないので、理論上の値に過ぎない。 事故などで体の大部分を失っても適切な処理をすれば元通りになるし、事前にバックアップしておけば完全に体が無くなってもアンドロイドとしてなら生き返ることが出来る。 それはもはや復活と表現した方が相応しい。 データが揃っていないので確実ではないが、ひょっとすると人間はもう死なないのかもしれない。 私が答えようとするのを彼は手で遮った。 「どうしてっていうのは、生物学的な死のことじゃなくてさ。 寿命で死んだり病気で死ぬというのは、納得はできる。 しかし、歴史的に見て、この世にはそういう死とは系統の異なる、不自然な死の例があると思わないか?」 滅多なことでは死なない人間もいれば、些細なことで死んでしまう人間もいる。 それは事実だ。 大事故に巻き込まれても生還する者がいる一方で、つまずいて頭をぶつけて亡くなってしまう者もいる。 前者は強運の持ち主とみなされ、後者は不運だと(あわ)れまれる。 友人は具体的な事例を持ち出して、彼の言う不自然な死について事細かく説明してくれた。 確かに死因としては些細なことの連なりだった。 それは不運としか言いようがない、奇特なことだ。 それらは全て、データベースで確認できた。 だが、それが一体何を意味すると言うつもりなのだろうか? 私には解答が見つからない。
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