第三章 秋

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「これから過去に行って俺が取る行動は、その先の未来に影響を与えるはずだ。 もちろん、旅行先での行動には厳しい制約がかけられている。 しかし、果たして全員が律儀に守っているだろうか? それにバタフライ効果だってある。 些細なことが後の世界で大きく影響してしまう可能性は捨てきれない」 確かに彼の言葉には説得力があった。 「では、どうして政府はタイムトラベルを禁じていないのだろうか? どれだけ人選を厳密にしたところで、危険な思想の持ち主を完全に排除することはできないのに」 私は論理的に導き出された質問をした。 「余程自信がある、ということだろう」 「自信?」 「奇妙な死に方の一方で、大事故でも軽傷で済む者がいる。 そこにはどんな差があるのだろうか? 過去は変えられず、未来は既に決まっているとしたら、それらのことが説明できるのではないか。 辻褄を合わせるために、人の生死は決められるとしたら、そして、もしも歴史を変えることが不可能だとしたら──。 自由意志など存在せず、俺達は定められたレールの上を進んでいる。 行き先を変えることも出来ないし、脱線することすら許されない。 タイムトラベルで過去に戻っても、何も変わらないし、変えることも出来ない。 政府がそれを最初から承知しているとすれば──、いや、全て承知しているとしか考えられない」 友人は静かに断言した。 話し込んでいるうちに出発の時間が迫ってきていた。
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