第三章 秋

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準備は滞りなく進み、あとは最後のイエスに指先が触れるだけだった。 友人は既にガラスに隔てられた別室で待機している。 過去での滞在時間は6時間に設定されているが、こちらには3分後に戻ってくることになっている。 カウントダウンが60秒を切ったところで、私はマイクで彼に問いかける。 「シャフトに異常は無いか?」 ガラスの向こうで友人は首を縦に振り、やや遅れてスピーカーから「問題無い」と声が聞こえた。 私の指がそっとイエスに触れる。 カウントダウンが始まった。 あと30秒。 「何があっても責任は感じないでくれよ」 彼は微笑んだ。 「まるで遺言みたいじゃないか。 残念だか事故が起きる確率は限りなくゼロに近いから、遺言だとしても無駄になる」 私も微笑んで見せたが、果たして上手く笑えただろうか? あと10秒。 友人は右手を上げて手を振っている。 「これは俺が選んだ未来だ」 その言葉を残して、彼は消えた。 タイムトラベルは成功したようだった。
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