第二章 夏

25/26
90人が本棚に入れています
本棚に追加
/86ページ
私は一つの仮説を思い付いた。 あまりにも突拍子も無い説だが。 私は、あの時──気が付いたら、あの木の前にいたのではないのだろうか? 現代から過去に行った者がいるのならば、未来から現代に来る者があっても不思議ではない。 私もまたタイムスリップして、元の時代に帰れなくなった者の一人ではないのか? 私はどこから来たのだ? 昔のことを思い出そうとするが、頭の中に霧がかかってしまったかのように、茫洋(ぼうよう)としている。 ここは現実なのだろうか? 現実とは何なのだろうか? もう、わからない。 昨夜(ゆうべ)一緒にいたのは誰なのだろうか? 本当に誰かいたのだろうか? 誰もいない暗闇に向けて、ずっと独り言を喋っていたのではないのか? 焚き火は火が消えて煙だけが薄く立ち上っている。 それだけが辛うじて昨晩の、ヒイラギがいたことの証拠のようだった。
/86ページ

最初のコメントを投稿しよう!