第四章 冬

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第四章 冬

1 森の中は冬だった。 (けが)れを知らない真っ白な世界で、しんしんと降りしきる冷たい粉雪が、俺を押し(つぶ)そうとしてくる。 雪の中、俺は亡き妻の墓前にじっと(たたず)む「自分自身」の姿を、斜め後ろから(なが)めていた。 自分の後ろ姿を(なが)めながら、これは夢なのだなと考える。 俺が見ている「俺」は、ネコを二匹抱き抱えていた。 ツバキと一緒に暮らしていた頃に飼っていたネコ達だ。 二匹とも、俺の存在に気付いているように、「俺」の肩越しに、じっとこちらを見つめていた。 ゆっくりとまばたきを繰り返し、シンクロしながら大きく一度あくびをした。 風で雪が舞い上がる。 音は、無い。 風に乗って、細長く白い布が目の前に飛んできた。 宙に浮いたまま(ねじ)れていき、両端が接合する。 出来上がったのは、数字の8──いや、違う。 裏と表が(ねじ)れて貼り合わされている。 これは──メビウスの輪だ。 ふわふわと手に触る物の感触があり、視線を落とす。 (かたわら)を見るとオオカミたちが、じっと俺からの指示を待っていた。 一番近くにいた群のリーダーが、俺の手の甲をペロリと()めた。 世界はそこで暗転した──。
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