降り立つ

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「たとえば、わたしが」――その節から初めて思考を編んでいく作業を好んでいた。平たく言っても言わなくても妄想である。妄想はいい。お金がかからないのに幸せになれる。 一人暮らし用の、角がやや黄ばんでしまった冷蔵庫と、その冷蔵庫に伸びる指が数年前に比べて優しく乾いた柔らかさを持ってしまったことに哀愁を感じながら、「たとえばわたしが村上春樹であったなら」と土に無理やりねじ込んだ妄想の種に水を注いだ。     
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