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もう何年も使っている座椅子に腰かけて、ジャズではなく冷蔵庫の電子音をバックグラウンドミュージックにして、お好み焼きに箸を入れた。立てた膝の上に置いた皿は思わず腰をひいてしまいそうになるくらい熱かったが、その熱は当然のことながらわたしの命を脅かすことはない。彼のようだと、その完璧に完璧を上塗りしたような精巧な美しさを思い出して、少しだけ笑った。
いっそのこと彼を見ていないと、彼の産毛でも視界に収めていないと死ぬ病気にでも罹ったら良かったと思うが、彼の不在はわたしを殺しはしなかった。悲しいとか寂しいとか悔しいをぐちゃぐちゃに丸めて時速200キロでぶつけられたような、泥のような感傷のせいで少し息苦しくなるけれど、肉体的には健康そのものである。不調をきたすのは心だけで、健やかな自分が少し憎かった。
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