彼女に花束を

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「……ッ!」  息が上がっている。眩暈がする。シーツは汗で模様を描いている。そんな、目覚めの悪い朝。 「ハァ……」  ベッド横のアラームが寝起きの脳みそにうるさいぐらいに響いて、ほとんど反射でそれを止めれば、後ろ髪を引かれる思いで這い出てシャワーを浴びに風呂場へと向かう。  時々、こういうことがある。亡くなった杯多璃子が、僕の目の前で亡くなったことがフラッシュバックするように夢に見る。  日差し眩しい夏のことだった。空を貫く摩天楼が競うように建っているビル街。汗をぬぐい、陽炎に目を細めて、璃子の到着を待つ。  そして、しばらくして彼女はやって来た。最悪な形で。 「バイバイ。好きだよ」璃子の声が聞こえた気がして。いや、確実に誰がなんと言おうと僕だけには聞こえて。何かが壊れた音がした。  静寂の後に、音が爆発した。「そうです! 人が飛び降りて……」「え、なに? なに? なにかあったの?」「嫌なもの見ちまった……」「いや、不味くね、コレ」パニックを起こす人。そこから立ちさる人。口を抑えてえづく人。警察か救急にでも電話する人。映画を見るみたいにスマートフォンで撮影する人。     
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