彼女に花束を

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「意外と、立ち直れるものだね」 「君がいなくなってしまうものだから、なかなか大変だったよ」  璃子はもういない。その存在を奪うことが死なのだから。弔うなど無意味な行為だ。生憎、非科学的なことも、死後の世界も、信じてはいない。弔いは死者のためでなく生者のためにある。  璃子には墓がある。僕もその場所を知っている。本来、命日ならば、お墓参りに行くべきだ。だけど、僕はどうしてもそんな気になれなくて。璃子の亡くなった場所で、花を手向けるのが、一番誠実で、僕達らしいと感じた。  そこから立ち去り、噴水のある広場で、彼女のことを考える。煙草を取り出して燻らせ、昇って行く煙を哀愁と共に見つめた。僕が考えていた人、待ち人である彼女は意外と早く来た。 「悪いね。待たせたかな?」  彼女はばつの悪そうな顔を浮かべて、僕の前で手を合わしている。シンプルなセーターに、ジーンズを履いていた。 「いや、そこまで待っていないよ。用事を片付けてたから」 「よかったよ。ここら辺に用事があったの?」 「あぁ……うん。花屋にね」 「意外だね。まぁ、ともかくそろそろ映画が始まるよ。さっそく行こう」  彼女が手を差し出してくる。彼女は半年前、僕に最初の告白をしてきた。     
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