彼女に花束を

6/7

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
 璃子が亡くなった当時の僕はただ毎日をこなしていただけで、それを見かねた僕の幼なじみである彼女が僕の様子を見に来た。  最初、どうでもいいと、鬱陶しいとさえ思っていたが、彼女によって立ち直れたといってもいいだろう。  僕が人並みの生活を送れるようになってしばらくして、半年前。僕に初めての告白をしてきた。断ろうとは思っていたものの、彼女は存外、執念深く、とうとう根負けして先週付き合うことになった。彼女に恩は感じている。しかし、恋愛感情はないと言った。それでもいいという。  そして、今日。彼女と初デートだった。彼女に約束の日時を伝えられた時は璃子の命日だったので逡巡したが、彼女は璃子のことを知らないのだから仕方ないだろう。  結局、迷った末に僕は彼女と初デートをすることにした。人によっては璃子の命日よりも、彼女との約束を優先した僕を罵るだろう。でも、璃子はそうすることを望む気がした。  あの時、「バイバイ。好きだよ」と聞こえた気がした。幻聴だったのだろうか。璃子が言ったのだろうか。僕に向けた言葉だったのだろうか。  落下している間、何を思ったのか。  今となってはもう、分からない。  煙草の火を消して、差し出してくる彼女の手を掴み、ここから立ち去ろうとした時。     
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加