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――それから数年後、母さんの老化が進んで痴呆が始まった。
足腰も悪くなって、車イスが必要な状態だ。
「母さん、散歩でも行こうか。近くの海が見えるところまで行こう」
そう言って、僕は母の車イスを押して外に出る。
「昔、母さんはよく取捨選択をしろって言ってたよね。
不要なものは全て切り捨てて、必要なことだけを選び取る。
それが母さんの教えだったよね。
僕は精一杯頑張ってきたつもりだよ。
母さんが満足できるぐらい、僕は頑張れたかな?」
しかし、母から返事はない。
僕が何を言っても分からないぐらい、痴呆が進んでしまったのだろう。
「きっと、まだ頑張りが足りないんだろうね。幸せになる為には、もっと努力しなくちゃダメなんだよね」
その時、母が口を開いた。
「大輔。ちゃんと宿題はやったのかい? 役に立たない友達は切り捨てて、しっかりと勉強しなくちゃ駄目よ」
次の瞬間、僕は海の見える崖から、母を車イスごと放り投げた。
「大丈夫だよ。役に立たない人間は、ちゃんと切り捨てるから」
僕はこの日、母を切り捨てた。
完
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