取捨選択

10/10
前へ
/10ページ
次へ
――それから数年後、母さんの老化が進んで痴呆が始まった。  足腰も悪くなって、車イスが必要な状態だ。 「母さん、散歩でも行こうか。近くの海が見えるところまで行こう」  そう言って、僕は母の車イスを押して外に出る。 「昔、母さんはよく取捨選択をしろって言ってたよね。  不要なものは全て切り捨てて、必要なことだけを選び取る。  それが母さんの教えだったよね。  僕は精一杯頑張ってきたつもりだよ。  母さんが満足できるぐらい、僕は頑張れたかな?」  しかし、母から返事はない。  僕が何を言っても分からないぐらい、痴呆が進んでしまったのだろう。 「きっと、まだ頑張りが足りないんだろうね。幸せになる為には、もっと努力しなくちゃダメなんだよね」  その時、母が口を開いた。 「大輔。ちゃんと宿題はやったのかい? 役に立たない友達は切り捨てて、しっかりと勉強しなくちゃ駄目よ」  次の瞬間、僕は海の見える崖から、母を車イスごと放り投げた。 「大丈夫だよ。役に立たない人間は、ちゃんと切り捨てるから」  僕はこの日、母を切り捨てた。 完
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加