取捨選択

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 小学校2年生だった頃、隣の席の女の子が声をかけてきた。 「消しゴム忘れちゃったから貸してほしいな」 「構わないよ」  そう言って、僕は使い古した消しゴムを彼女に手渡した。 「それあげるよ。僕は新しい消しゴム使うから」 「いいの? ありがとう」  使い古した残り少ない消しゴムを貰って喜ぶ彼女の笑顔が、何故かとてもまぶしく見えた。 ――翌日。彼女は消しゴムのお礼にと、可愛らしいキャラクターの鉛筆をプレゼントしてくれた。 「あ、ありがとう」  正直、とても嬉しかった。学校の友達から物を貰うなんて今までに無かったことだ。 「このキャラ可愛いでしょ! 私も使ってるからお揃いだよ」  そう言って、彼女はニコニコと同じキャラクターの鉛筆を取り出して使う。  彼女の笑顔を見た瞬間、僕はこれが初恋だということに気付いた。 ――夜、自分の部屋で彼女からもらった鉛筆を使いながら勉強に励む。  コンコン。 「大輔、ハーブティーが入ったからお飲みなさい」  母親が部屋に入ってきて、僕の机の上にハーブティーを置いてくれる。 「あら? 大輔、その鉛筆はどうしたの?」 「あ、これ……クラスの女の子から貰ったんだ」 「何だか頭の悪そうなキャラクターね。そんな鉛筆を使ってる子と仲良くなったら、大輔まで頭が悪くなってしまうわ。鉛筆ならお母さんがちゃんとしたのを買ってあげてるでしょう? その鉛筆はすぐに返しなさい。あと、その子とはもう話しちゃ駄目よ」 「あ……うん……」 ――翌日。僕は鉛筆を彼女に返して、こう告げる。 「ごめん。君とはもう話さないから、僕にも話しかけないで」 「え……どうして?」 「うるさいな。話しかけるな」  そして、僕は初恋を切り捨てた。
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