取捨選択

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 それから僕は、自分に釣り合う女性を探したが、そのような女性と必ずしも付き合えるわけではない。  気付けば、僕は独身のまま40歳を迎えていた。  仕事は完璧に上手くいってるとまでは言えないが、それなりに苦労しながら何とかやってきてる。  昔、母さんから教わった通り、必要ないものは切り捨てて、必要なものだけを選び取って生きている。  僕は昔から、色々なものを切り捨ててきた。  オヤツ、漫画、ゲーム、友達、初恋、学校生活、自分の感情……そして香織。  それらを捨てて勉学に励み、ひたすら努力をし続けて、一流の企業に入社することが出来た。  ただ、40歳を過ぎても役職はなく、年下の上司にあごで使われる日々だ。  これが僕の歩みたかった人生なのだろうか。  いや、まだ足りないだけなんだ。  僕がこんな風に思うということは、まだ切り捨てられていない無駄な感情があるからだ。  無駄な感情は切り捨てなければ。  今までも、これからも、必要のないものは全て切り捨てる。  そうすれば、きっと幸せになれるはずだ。  幼い頃に聞いた母の言葉を思い出す。 「大輔は、将来は立派な大学を出て、一流の会社に勤めるのよ。その為に必要なものは、お母さんが全て与えてあげるからね。お父さんなんか必要ないのよ。だから、大輔も必要ないものは切り捨てて、必要なものだけを選ぶの。そうすれば、きっと幸せになれるからね」  そう……。幸せになる為には、もっと取捨選択をしなければ。
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