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きっかけは母からの依頼だった。兄と連絡が取れないから訪ねて欲しいと。芦屋麻衣は気だるげに車を走らせていた。
(いつもそう。自分の事は放っておくくせにお兄ちゃんのことばかり気にかけて)
芦屋麻衣は別に嫉妬しているわけではない。そういう感情もあるにはあるが、むしろ母につきまとわれる兄を不憫に思ったことの方が多い。
昔から成績が優秀で国立のT研究所に入所した兄こと芦屋太一は芦屋麻衣の母親にとって自慢の息子であり、過保護と言えるほどの愛情を注がれていた。嫌がる太一の入所式にまでついて行くほどの。
だから嫉妬という感情は薄く、太一に対する溺愛に関しては勝手にしてくれという感じなのだが、ただ芦屋麻衣はその過保護に自分が付き合わされるのだけはごめんなのだ。
(少しくらい連絡が取れないくらいで。もうお兄ちゃん33だぞ)
住宅地の奥にある古びたアパートの土の駐車場に車を止め車外に出ると、七月の蒸した熱気が芦屋麻衣の細い腕に絡みついた。ボロアパートといっても差し支えのない建物の一室に芦屋太一は住んでいる。
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