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「だから言ったじゃん、俺は真面目で優しいんじゃなくて、誰にでも良い顔をしてるだけだよ」
いや、それは仕事を重視しているだけで、真面目なんじゃないか?とすら思ってしまった。結局、彼は真面目だ。
だけど内心、モヤモヤとした感情が湧いてくる。
「何か嫌」
私がそう言うと、彼は「幻滅した?」と苦笑した。だけど、全然そういう意味ではない。ただの嫉妬だ。
「じゃなくて、千晶が別の女の人とどうこうなってるのを想像するとムカつく」
すると、声を出して笑われた。
「…そんなの、仕方無いだろ。心美にだって、過去はあるんだから」
「分かってるけど…!でも、なんか嫌」
すると彼はやっと招待状から目を離して、私に向き直った。
「普通、女の子って最後になりたいんじゃないの?」
「最後?」
「よく言うじゃん。男は最初、女は最後って」
「そうなの?」
「男を喜ばせたかったら、こんなの初めてって言うのが良くて、女にはお前が今までで一番だよって言うのが良いって…聞いたことない?」
「あるような、無いような…」
「心美、サバサバしてるから、そういうの余計に気にしないんだと思ってた」
そう言ってまた目線を落とすから、私は小さく呟いた。
「…そんなこと無いよ、私は最初にも最後にもなりたかった」
するとチラリと目線だけをこちらに向けて、「意外と独占欲強いんだな」って笑われた。
だって、中学2年のあの夏に、もし気持ちを伝えていたら。私は彼の最初にも最後にもなれていたのかもしれない。結局は一緒になれたけど、そう考えると悔しい。
そう思いながら私も彼の宛名書きをやっと始めると、彼がポツリと呟いた。
「まあでも、あの時にちゃんと好きって言ってたら、お互い最初で最後だもんな」
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