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えっ、いま私の心を読んだの?
そう思うくらい、思っていることと全く同じことを言われたから、思わず彼を凝視する。
「今、私もおんなじこと思ってた!」って分かち合いたかったのに、彼は突然「あ!」と大きく口を開けた。
「そうだ。言おうと思って、忘れてた」
「?」
そう言って、ゴソゴソと鞄を探る。中から何やら派手な冊子を取り出した。
「独身最後に、旅行しない?」
それは、旅行のパンフレット数冊。タイトルに有名な温泉地の名前がデカデカと書かれている。
「ここ、安産祈願の神社だって。近くに温泉があるから、そんなに良い宿には出来ないけど、2人でゆっくりしようよ」
「子どもも生まれるし、2人で行けるのは最後だろ?」って陽だまりみたいに微笑われて、私の胸まで暖かくなった。なんだか過去の話とかどうでも良くなってしまう。
女が最後に弱いというのは、あながち間違っていないのかもしれない。
「…こんなに優しくされるの初めて…!」
茶化すみたいにそう言ったら、彼は豪快に大笑いしていた。
【おわり】
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