恋のMVP

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「あ!」 恵美梨が突然声をあげて立ち上がったので、嫌な予感がした。彼女が駆けて行った方を見ると、皇くんが帰ってきていた。 「今日は早いね、お帰り!」 「現場が近かったからね、」 事務所の入り口から私たちのデスクまで結構距離があるのに、彼らの会話は耳元で話しているくらい、私の耳にはよく届いた。他の人は誰も気にも留めていなかったけど。 「今日は何処で食べる?」 「何処でもいいよ、田中さんは何処がいい?」 「じゃあねー、先週行った創作居酒屋は?個室で雰囲気良かったし!」 「あそこ美味しかったね、良いよ。すぐ荷物取ってくるから、ちょっとだけ待ってて」 「うん!」 恋人同士が話しているみたいに聞こえた。 知らない間に彼らの距離は格段に縮まっていて、頻繁に食事に行く仲になっているようだ。 私の中の、醜い感情が顔を出す。今更 嫉妬したって、どうにもならないのに。 恵美梨が荷物を取りに戻ってきたので、私は慌ててパソコンに向き直った。隣から視線を感じる。多分、見ていたことに気付かれているんだろう。 チラリと彼女を見ると、冷めた目で私を見ていた。 「恵美梨、今夜キメるから」 私が驚いているうちに、彼女は颯爽と去って行った。私の初恋の人の腕に、さり気なく手を回して。
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