一冊のノート

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 非日常は突然やってくる--。 「こんなものが出てきましたよ」  長身で細身の一之瀬管理本部長があごに手を当て考えるような仕草でシステム課の宮城課長に手渡したのは一冊のノート。  メガネを上に押し上げ、宮城課長がそれを受け取る。 「これは……退職者の『遺品』ですかね?」 『遺品』--退職者が処分せずに残していった私物が得てしてそう呼ばれるのはどこの会社も同じようだ。  事務所を移転したのは1ヶ月前。 『移転』と言っても、同じオフィスビル内でワンフロア下の別室に移動しただけなのたが。  引っ越しは業者によって夜中に行われ、私達は前日夕方に段ボールに荷詰めをしただけ。  翌朝出勤したら既に荷物が運びこまれた後だった。  その時の荷物に紛れ混んでいたのか。  はたまた、別拠点にあった営業所が本社であるこのビルへ移動したのも同じ時期だった為、その荷物がこちらに紛れ混んだのか。  真相は定かではないが。  一冊のノートが注目を浴びることになった。
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