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山道をゆっくりと揺られながらバスは登って行く。
木々の合間から眩しい日差しが暖かい。
春の緩やかな風を心地よく感じる。
高校生になって、ようやく穏やかな日々を感じれるような気がする。
この間、母とおじいちゃんの家の話になった。
季節おりおりの花や野菜があって、縁側の日向ぼっこが気持ち良く、近くの小川のせせらぎや、菜の花の臭いが好きだったんだそうだ。
「そう言えば、小さいときは白いふわふわした生き物が居たり、風に助けられたり、不思議な事もあったわよ」
その言葉に興味があった。
今は、おじいちゃんの家は無くなっている。
でも、小屋や、小川や、古い神社はまだあるらしい。
休日に、ふとした思いつきで訪ねてみようと思ってバスに乗って来てみた。
バスから降りると、土の臭いがした。
暖かい土の臭いだ。
少し歩くと、新緑の臭いに包まれた。
なんか心地よく、気分が乗ってきた。
おじいちゃんの家は無かったけど、畑や庭木は手入れしてあるみたいで気持ち良かった。
小川を見つけて、川向かいに登って行くと小さな神社に着いた。
参道に高い木々が並んで少しひんやりする。
お参りして参道へと歩くと、向かいの坂道をかけ上がって行く人を見た。
同い年位かな?
堤の回りを廻って行く彼女に違和感を感じた。
右手を右後下に伸ばしたままだったからか、不自然な動きだったからかな?
いや、違う。
目が青く光って見えたから…
ちょっと空気が重く感じた。
近寄ってはいけない?
好奇心が先に行き、私も駆け寄って行った。
「何をしているの?」
つい、声をかけてしまった。
彼女は、何かを目で追いながら、
「だめ、近寄らないで」
と叫ぶと、
私の方へ目を追いながら
「あ、だめ」
と叫んだ。
「え?」
彼女の右手が下から斜め上に切り裂く。
そう、右手に青く光る何かが見えた。
風が私を少し後へ押した。
そう、風に押された気がした。
目の前に切られていく“何か”があった。
何者?
気が遠くなって行くのが解る。
何がおきてるの?
“何か”が消えかけているとき、“何か”が解った気がした。
でも、説明出来ない。
そのまま気を失ったみたい。
道端の黄色い花が、やけに美しく見えた。
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