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 そんな話をしたら、「つまり、レイちゃんはマイノリティ」とユキちゃんはパソコンに向かって動画を仕上げながら言い放ったが、そんなプロタゴラスな、価値観は人それぞれだ的な返しによって私が頓悟することはなく、むしろマイノリティは社会的弱者を指す言葉だから数多くの自由が認められている我が国においてマイノリティはほぼ存在しないんじゃないか、なんて別の思考が脳裏を埋め尽くしてしまったのでアウトプットを止め音楽に逃げる。何を言っているのかよくわからないボカロの声は思考停止にちょうどよい。世の中すごい。インターネット上には溢れんばかりの才能がゴロゴロしていて、その一人になりたくて私も頑張っているわけだけれども、要はそれってやっぱり他者評価を求めているのだから、ああ本当の天才はそんなこと気にせずに絶対軸で自分の中にあるものを発信し続けているんだろうなと、自分の無能さに死にたくなる。ユキちゃんが作っている動画 、ボカロのPVの作詞は私。ユキちゃんは曲を作ることはできるが歌詞が書けないらしく、文学部なので何か書いてみてよと言われて書いた。ユキちゃんいわく害のない歌詞。メッセージ性もなく意味不明を狙い過ぎてもなく、青臭い言葉ばかりでもない。いやいや私だってODDS&ENDSとかアイロニみたいな歌詞書けますからと意気込むと必ず採用されない。再生数はこないだようやく1000達成。これ自分達でパソコンやスマホからアクセスしてるカウントが積み重なってるだけじゃない? ああ、駄目だ。気が付くとまた考え事してる。ヘッドホンを外し天井を眺める。コツコツと足音が聞こえてきた。 「ただいま」 「しーちゃん!」  扉が開くと同時に飛びつく。ドサドサとスーパーの袋から野菜が転がり、あ~あとため息をつくしーちゃん。人参、ジャガイモ、玉葱。「カレー?」と聞くと、そうと頷く。ということは今日は月曜日か。     
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