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「もういいじゃない、あきらめなさいよ。彼って容姿端麗で、頭も良くて、剣の腕もすごいらしいじゃない。それになんといっても貴族様だしねぇ~、玉の輿よ、羨ましい~。貴族様が平民へ目を向けてくれることなんて、そうそうあることじゃないわ」
「だから……その貴族ってのが一番のネックだって何度も言っているでしょう!!!私はね、貴族にはなりたくないの……」
「もう~またそれ。あなたって本当に変わっているわよね~。普通平民の私たちは貴族にあこがれるものよ。私だって貴族様になれるのなら、今すぐにでもなりたいわ~。綺麗なドレスに、豪華な宝石、甘いお菓子もお腹いっぱい食べられる。それになんといっても煌びやかな夜会、あぁ~女のあこがれよ」
友人の夢見る姿を横目に私は深いため息をつくと、彼女の話を馬耳東風に、真っ赤な夕日が傾いていく、窓の外へと視線を向けた。
私は生まれも育ちも平民だ。
街の小さな商店に生まれ、優しい父と母に育てられた。
しかしそんな私は普通の人とは違い、なぜか生まれる前の記憶がある。
この世界の過去に生きてきた、貴族令嬢だった悪夢の記憶が……。
友人の言う通り煌びやかなドレスを纏い、扇子を口元にあて、平民を蔑んでいた昔の私。
自分を着飾り、他の貴族たちと張り合いながらに生きてきた。
自分の価値をどれだけ高められるか、自慢できるか……それが私の全てだった。
そんな昔の私は、俗にいう悪役の令嬢そのものだったわ……。
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