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そんな暗い記憶がある限り、私は貴族には戻りたくない、そうずっと思っていた。
そりゃ最初は……平民なんて下等な者に生まれてショックを隠せなかった時期もあったわ。
でもいざ生活してみると、様々な柵がある貴族なんかよりも、平民の生活は自由だった。
確かにお金はないが……好きなことを好きなだけできる。
父と母の愛情に包まれ、子供が子供らしく居られる世界。
お母さんもお父さんも優しくて、高価な食事よりも、手料理の方が数段美味しいことを知った。
貴族だった時は、父も母も政略結婚で、屋敷で二人が話をしている姿なんて見たことがなかった。
愛情を注がれた記憶もなく、いつもメイドが私の世話をしていたわ。
物心ついた頃から、マナー叩き込まれ、ダンスの練習に、ありとあらゆる分野の学問取得のために家庭教師が付き、毎日が勉強ばかりだった。
子供なのに、外で自由に遊ぶことも出来なかった貴族の生活。
だから友人と呼べる人もいなくて、お茶会や夜会で知り合う貴族たちと上辺だけの付き合いばかり。
恋愛も自由にはできず、家のための結婚が当たり前だった世界。
でも今の私は違う。
人と対立する事ではなく、寄り添えることを知った。
友人と呼べる人もたくさんでき、平民には政略結婚なんて存在しないのだから、恋愛だって自由にできる。
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