名和さんの話 前編

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名和さんの話 前編

その日は、紗都さんが20時までの仕事で、それが終わるまで紗都さんの部屋で待って、それから二人で食事に出かける予定だった。 しかし、夕方にLINEで、急患の対応で遅くなるから、先にご飯は食べててと連絡が来た。 仕方ない事とはいえ、久しぶりの紗都さんとの食事が出来なくて、少し淋しい気持ちを抱えて、夕飯の調達に街に出ると、「金澤!」と後ろから聞き慣れた声で、声をかけられる。 「名和さん…」 振り向くとそこには、長身の美人が立っていた。 前髪にボリュームのあるショートカットだが、その髪に負けないくらいの目力の強さが印象的で、そのせいで気が強そうな女性に見える。 まぁ、見た目だけではなくて、実際もかなり気は強いのだが、中身はオヤジだ。 茶色の髪に、茶色の瞳。 シャープな顎のラインに、すっと通った鼻筋。形の良い唇には、ベージュの口紅がのせられていた。 短めのジージャンの中に、太めのボーダーのシャツ、下はワイドパンツに、ヒールのない靴だが、それを着こなせるスタイルの良さ。 まるで、女性向けのファッション誌からそのまま出て来たのかと思うほどに、その姿はかっこよくてかなりの迫力があり、人目を引いていた。     
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