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薙澤さんの背中を見送りながら、ふと空を見上げる。
雲ひとつない穏やかな水色の空。
薙澤さんのご主人は、そこから奥様と私を見ていてくれたんだろうか?
その空に白い月が薄っすらと顔を出していた。
あの時、金澤くんの部屋に通ったあの日々を、ずっと金澤くんに申し訳ないって思っていた。
でも、どこか後悔はしていなくて。
それは、あの日々があったからこそ、今の私たちの関係があると思っているからかもしれない。
あの時の関係がなくても、私は金澤くんの勤務移動でショックを受けたと思う。その時に、同じように名和さんが御膳立てしてくれていても、私は素直になれなかったような気がする。
「紗都さん」
いつのまにか近くに来ていた金澤くんに声を掛けられる。
「どうしたの?」
「ううん」
「行こうか」と差し出された手を取り、「うん」と返事をして、今の幸せを噛みしめる。
薙澤さんが言うように、人生に意味のないことなんてないならば、あの時の時間を私達が意味のある事に変えたんだと思う。
今、こうやって二人で過ごせるのは、金澤くんがあんな弱い私を受け入れてくれたからで、そんな金澤くんだから、私は弱い自分を晒す事が出来たんだと思う。
そして、いま二人並んであの頃とは違う景色を見られる事に感謝しながら、私はもう一度空を見上げた。
十三夜 番外編
「ある日曜日に」
おわり
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