名和さんの話 前編

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  「今帰りですか?早いですね」 「まぁ、たまにはねー」 名和さんは、紗都さんが働いている病棟の副師長で、すなわち俺の元上司。そして、とにかく仕事が出来た。 CNSと呼ばれる専門看護師の資格を持っており、知識、実践ともにずば抜けて周りの看護師より高いものを持っていた。 仕事に対する意識が高く、自分に厳しい分、他人にも厳しく、そのせいで周りに敵を作る事も多い。 俺自身も就職したての頃は、本当に厳しい指導を何度も何度も受けて挫けそうになる事もあったが、あの時の指導が基盤になり、今の自分を支えていると今なら思える。 名和さんは、確か40代前半で、安室奈美恵が引退する時に、『別にファンじゃないけど、同世代が引退するっていうのは、なんだか淋しいよね』と酒の席で話していた。 『かと言って、私アムラーだった訳じゃないから。まぁ、厚底は履いてたし、あの頃は小室ファミリーの歌ばっかり歌ってだけどさ』なんて言い出して、その後は散々カラオケに付き合わされたのだが、酒の席では絡みもされるが、俺は名和さんが嫌いではなかった。 むしろ、看護師としても、人としても尊敬していた。 「紗都に会いに来たの?多分、今日は遅いよ」 「はい、連絡もらいました」 「そう。なら。ちょうどよかった。飲み行こう!」 そう言って、名和さんは俺の返事を聞く前に、首に腕を回して連行し始めた。 本当に、まるでパワハラのオヤジだ。     
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