名和さんの話 前編

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以前、何度か名和さんに連れてきてもらった事のある店に、そのまま連行される。 名和さんが若い時から、時々来ているというその店は、特段ここが良いと言う所のない、居酒屋と定食屋の中間みたいな普通の店だった。 遅くまで開いていて、味も値段もそこそこで、そんなに大きくもなく小さくもなく、客が少なくもなく多くもなく、酒を飲まなくても嫌な顔されないし、何より勤めている大学病院の人間に出くわす事があまりないのが良いと、名和さんは言っていた。 それを聞いて、とても名和さんらしいなと思った。そんな、ある意味名和さんのプライベートゾーンとも言える場所に連れて来てもらえるというのは、喜ぶべきことなんだろうと思う。 カウンターに座った俺たちは、名和さんオススメのいも焼酎のお湯割りを頼んだ。 やっぱり親父だと、心の中で思いながら、そんな事、もちろん言えるはずもなく、酒のつまみしか頼まなかった飲む気満々の名和さんに、紗都さんが帰って来るまでに、解放してもらえるかなと、心配になっていた。 この状況では、どうする事も出来まいと、半分諦めながら、テーブルの上のお通しに手をつける。せめて自分は酔わないようにしないとと、気合いを入れながら。
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