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休みの日も、糖尿病学会の地方支部の集まりとか、専門看護師の仕事だとか、院内認定の講義とかで潰れてしまうってぼやいている事は時々あったが、プライベートらしい話は聞いたことがない。
謎だなと思う。
「今日の昼休みね、ニノの結婚について、ワイドショーでやってたのよ。そしたら、珍しく唯川が反応するから、好きなの?って聞いたら、はい、母がだって。お母さんが、悲しむだろうって心配してたのよ」
くすっと、自嘲するように笑った名和さんは、「まあね、唯川のこと、私が産んでてもおかしくないくらいの年の差だしね」と、遠くを見ながら言った。
かと思うと、俺の方に視線を向け、「何、真面目に聞いてるのよ、笑うとこでしょ」と、突っかかってくる。
確かに、言われる通りだと思いながら、その話が、単なる年の差ネタではなく、名和さんにとっては、感慨深いものが隠されているような気がした。
「ねえ」
視線を前に戻して、さつま揚げを摘み始めた名和さんが、急に話かけてきたので、不意を突かれる。
「はい」
「良かったね」
そう言った後に、こちらを向いた名和さんは、今までに見たこともない程、穏やかな顔をしていた。
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