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ゆっくりと金澤くんから離れる。
「Tシャツ、洗ってくるね」
すっかりお馴染みになったいつもの玄関先での会話。
「いつ……」
「えっ?」
「持ってきます?……Tシャツ」
「あぁー…………木曜。ロングの帰りでもいい?」
「はい」
でも、次の約束をしたのは、これが初めてだった。
Tシャツを返しにきて、
そのまま金澤くんの部屋に上がって、
二人で夜を過ごして、
一緒に朝ごはんを食べて、
玄関でハグして、
Tシャツを預かって、
額にキスをもらって、玄関を出る。
そんなことを繰り返して、四回目。
靴を履いて振り返り、一段上にいる金澤くんを見上げる。
優しい眼差しで見つめながら、金澤くんは私の肩へ手を添える。
チュッ
驚いて目を丸くする。
今日は額ではなく唇に、金澤くんはキスをくれた。
「いってらっしゃい」
爽やかな笑顔の彼に、「あっ、うん」と、はにかんで一旦視線を下に落とす。
もう一度金澤くんのことを見上げて、「じゃぁ」と右手を上げると、「気をつけて」と、今度こそいつもの言葉に見送られて、玄関を出た。
ひんやりとする秋の朝の空気に、気が引き締まる感じがした。
月曜日の朝、7時過ぎ。これから職場へと向かう。
初めてこの部屋を出た時は、後悔と罪悪感でいっぱいだった。
もちろん今もそれは変わらずあるんだけど、それよりも大きくなりつつある、二人で過ごせた満足感と、離れたばかりの寂しさに、戸惑ってしまう。
やばいなぁと、どうしよう……が、繰り返し頭の中に出て来るものの、どうしていいのかわからない。
淋しさを一人で抱えきれないバカな女に自分が成ってしまっているのはともかく、そんな女に振り回されるバカな男に金澤くんをしてしまっているのは申し訳なかった。
このまま流されてこんな関係を続けたところで、この先彼との未来はない。深みにハマる前に、早くどうにかしなければ…そう思って、バックの中のTシャツに目をやる。
ハァーッと大きなため息を一つ吐いて、とりあえず仕事と気持ちを切り替えて、足早に駅へと向かった。
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