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祖父もただ者ではない。自分のビジネスでに絡めた計算をするのは当然だ。
「しかも、この話が正式に決まればプレス発表がある。そこで奈々は初めてこの映画に自分の勤める会社が関わっていること、さらにいずれはおじいちゃんが関わっていることも知ることになるだろう。それでは、奈々を置き去りにすることになってしまう。おじいちゃんはそれを避けたかった。もうひとつの理由は、やはり彼女の奈々に対する強い思いをどうしても伝えたかったからだ。奈々にすれば、聞かなかったほうが良かったかもしれないけれど、どうかわかってほしい」
真理の思いと祖父の優しさが交錯し、確かに複雑な思いで心が揺れるが、でも言ってくれて良かったと思う。
「ううん、話してくれてありがとう。真理さんの気持ちも、おじいちゃんの気持ちも嬉しい」
「そうか。良かった。でも、彼女には聞いていないふりをし続けてくれるね。それが彼女の心根に応えることだから」
「わかりました」
すべてを話してホッとしたのか、息を整えた祖父の涼やかな表情からは安らかな温もりが伝わってくる。祖父の瞳の中に、父とよく似た奈々の今にも泣き出しそうな顔が映り、室内は尊い静けさに包まれた。
今日、父の自宅を訪れた段階では、映画企画の話はまだ父には伝わっていないことがわかった。きっと、真理と映画プロデューサーの二宮とで、父を説得するための戦略を練っているところなのだろう。
気まぐれに混ぜ合わされた絵具の色が、意志を持ち始め、ひとつの絵になろうとしている。
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