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──その日の夢はいつもと違った。
知らない景色、知らない場所、知らない街が古い映画のコマ送りの様に私の前に映っては消えていく。
そこには私の父も母もいない。
夢だと解っているのに、映像から目が逸らせない。
何故だか、ひどく懐かしくて、
見たことのないはずなのに、胸が締めつけられるような錯覚にとらわれてしまう。
不意に、
不意に、映像が一瞬だけブレ、
やっぱり見覚えのない庭の様な場所が映された。
そこには何かが──誰か、が立っている。
白い髪の、少女。
白いワンピースを纏った、白い少女。
ややセピア色の映像の中で真っ白な少女だけが鮮明に浮き上がっているが、少女は後ろを向いていて、こちらから彼女の表情は見えない。
何故か、そこに安堵している自分がいることにも、気づけない。
夢の中なのに、私の握り込んだ手が汗ばむのを感じて、焦燥が胸を焦がしている。
(本当に、これは夢?……夢なら、覚めて、早く!早く……!あの子がこっちをむく前に……っ!!)
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