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夢を見ていた。我が国自慢の螺鈿装飾が鮮血の飛沫に濡れる様を、何度も見続ける苦痛。
「何故……」
「申し訳ありません、殿下」
血濡れた刃をカーテンで拭き取る彼は、僕の従者兼護衛のライアンだ。革命と戦争が重なり裏切る者が後を断たない我が国で、最も信頼していた部下はゆっくり微笑んだ。
「今まで、楽しゅうございました」
痛みに呻き倒れた僕の顔を、彼は覗き込む。ライアンの考えが、分からない僕は必死に口を動かした。僕の、問いへの答えが為されていない。
「な、ぜ……」
はくはくと、息を吸い込みながら必死に問うが、ライアンは目を細めて笑い、再び剣を振り上げた。
衝撃。
熱い傷跡から、血飛沫が飛ぶ。体の端から一気に冷え始め、凍える冬期ような冷たさが僕を支配しようとする。視界がぼやけて、息がただただ苦しい。痛みだけが体を熱する業火のようだった。
「殿下、ありがとうございました」
裏切りは、日常茶飯事。今思えば、あり得ないわけではなかった。繰り返し見る夢はやがて、息苦しさが生々しくなっていく。 死後の世界は暗い。苦しさに震えた体が、偶然か、壁に触れた。そして、体を支えるシーツの柔らかさと触れている肌の熱が苦しくて、寝返りを打とうとする。すると、ガタリと音を立てて、壁に亀裂が入った。その亀裂から漏れる光を求めて、僕はその光に手を差し込む。
ギギギと音を立てながら、亀裂は広がっていく。そして一瞬光が陰り、声が聞こえた。
「さて、このまま棺を出てもいいものか」
「……ィ……」
咄嗟に返事をしようと口を開いた、僕の喉は掠れた音を出した。喉がイガイガして、咄嗟に咳き込む。咳は中々止まらず、呼吸さえまともにできない。涙が目に滲み収まる頃になって、声の主は高らかに笑った。
「ハハハ、すまないな。目覚めたばかりで混乱しているだろう」
その声の主をようやくしっかり見た僕は、唖然とした。絵画には人類の敵として描かれ、忌まれる生きてはいないモノ。魔獣を統べる、魔の女王。
人間によく似た体を、毒々しい色をした植物と甲殻が服のように全身を覆っている。
魔の女王の紫で鋭い爪が、僕の頬を撫でた。
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