第1章 夜明け

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旅の始まりはもたつくこともあったが、今は順調そのもの。不当に扱われ、奪われたり騙されることもあった。しかし、この男がいれば、なんでも解決したし、親切な協力者は現れ続けた。 豪快にガハハと笑う、この『勇者』は僕が祖国を出て一番最初に出会った人だった。 棺の中にあったシーツをマントにして、近くの民家に残っていた服に着替えた僕は、国境に向かって歩いていた。そして、妙な気配のする男と出会ったのだ。 「お前さん、なんて方向から来たんだ……」 槍を構えたその男は、僕が人間だと分かると、穂先を下げ、唖然として呟いた。僕は、無視しようと思った。こういう手合と関わっていては、厄介事に巻き込まれる、そんな予感がしたのだ。彼と一定の距離を保って迂回しようとする。だが、その男は走り寄ってくると僕の手を掴んだ。 「……なにか?」 振り払いたいが、しっかりと握り込まれている。邪魔だと思いながら、彼を睨む。不死になっても非力は変わらなかった。 「俺は、ジーク。勇者ジークだ」 その不審な男は、やはり勇者であるらしい。でなければ、魔獣の棲みかである我が国の近くにいるわけがない。僕は、警戒しながら儀礼として名乗り返す。 「僕は、アトラン」 「アトラン?……珍しい名前だな」 無礼者と叫びたい心地になるが、今の僕は王子ではない。ただの死に損ないの、不死者だ。平凡な人間に成り下がったのだ。 「…………離してくれないか」 「ああ、悪い」 「ふん……」 鼻を鳴らした僕は腕をさする。赤くなっちゃいないが、皮膚のしたがむずむずする。僕でなければ、跡が残っていたことだろう。 「アトランさんよ。もしかしてフェニル王国の出身かい?」 「そうだが……」 「こりゃぁ……驚いた。フェニル王国にも生き残りがいたんだな」 そして、勇者ジークは噛み締めるように目を閉じてから、祖国の王都を見やった。 「……どういう意味だ?」 「何言ってんだよ。魔獣たちのスタンピードが起きて勇者がいない国はほとんど滅んだじゃないか……」 「……そうなのか」
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