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「川島広斗、首都圏営業本部所属」
「はい」
広斗は元々希望していた営業になったらしい。
そんなに表情を出すタイプではないけれど、その足取りは軽く嬉しさが滲み出ていた。
辞令を受け取り席に戻ってきた広斗と目を合わせ、辞令の紙を少し挙げてお互いに宜しくと合図する。
「牧野憲吾、首都圏営業本部所属」
「はい!」
「千葉宗一、首都圏営業本部所属」
「はいっ!!!」
宗一の大きな声に会場全体から微かな笑い声が聞こえてくる。
みんなが笑いながら宗一に注目する中、私は宗一の席の隣、凛と座っている南ちゃんに視線を移した。
これで、もし……もしも南ちゃんが……営業になったら。
どうか、神様。
そんなドラマチックな展開はいりません。
人生ってそんなに波乱万丈じゃなくていいと思うんです。
どうか、どうかわたしに平穏を。
いつの間に力が入っていたのか、辞令の紙が手の中でぐしゃりと鈍い音を立てる。
「南野麗子」
ああ、なんだか……
「首都圏営業部所属」
「はい」
スローモーションみたいだ。
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