マリアージュ・フレール

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マリアージュ・フレール

彼女ははねっかえりのつっけんどん。 習いたてのヴァイオリンを弾けば不敵な笑みを浮かべて近づいて来る。 捨てられた仔猫のように。 人間を警戒しながら。 日の戯れの最中、臆病に笑うひまわり達。 背中の翼で守る彼女は、僕らを千尋の谷に突き落とす。 不思議な音楽を奏でながら、僕らは生まれて初めて得た自信を、スーパーの肉や野菜に変えて彼女と食卓を共にした。 捨てられた仔猫のように。 人間を警戒しながら。 西へ東へ海へ山へ コントラバスを抱えて行く君の横顔写真に収めたら、セロ弾きのゴーシュよろしく音のマッサージ業であの街この街小学校。 化石の声に耳を澄ませば、夏の夜空に花が咲く。 覚えたてのフラメンコギター。 狂いながら弾くヴィオラの音色。 琥珀色の世界。 写真では色褪せない。 夏の終わりのひぐらしのように 終わりのないカノンを奏でる僕らに出口はあったのか? 恋はヴァイオリンを弾くより難しいから。 彼女ははねっかえりのつっけんどん。 みんなが喜ぶ即興曲に身を任せれば、捨てられた仔猫のように、人間を警戒しながら僕らは飛んで行くだろう。 誰にも知られない場所で。 翼を得て。
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