おじさんの肖像

1/1
前へ
/55ページ
次へ

おじさんの肖像

どうせおじさんになるのなら 「どうしてそんなに人の考えることがわかるんですか?」 と訊ねた青年に 「そんなの普通に暮らしてりゃ、だれにでもわかるようになりますよ」 と答えた哲学者のようになりたい。 どうせおじさんになるのなら ジャズ・セッションに参加しながら 「僕、ビル・エバンスが好きなんですよ」と語った青年に、ほくそ笑みながら 「エバンスのバードランド(非公式)のライブCD、新星堂に売ってるの知ってる?」とささやける会社員になりたい。 どうせおじさんになるのなら 大学教育を受けて、本質を見失ってる青年を 行きつけのスナックに招待して、彼がカラオケで歌った「Yesterday」に 「わざと古い歌歌ってるのかな?」 とママと心配してる、詩人で不動産屋のおじさんになりたい。 どうせおじさんになるのなら 音楽を勉強していて、まるで上達しない青年に、 最後の授業で 「音楽を愛してほしい」 と語ったあのおじさんのようになりたい。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

33人が本棚に入れています
本棚に追加