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助けを求めるように振り返って凛太郎を見ると、まだ泣き笑いの顔で足首を掴んだバケモノの手と格闘している。バケモノはすでに上半身を砂の上に引き上げているというにも関わらず。
「何やってんだよ!」
使い物にならない。
はっきり分かるほどに舌打ちし、仁那は凛太郎のそばに駆け寄ろうとした。
その瞬間、ぐっと後ろから引っ張られた。
「そ、そばから離れないで、お願いお願いよ、なんなのこれ、何が起きてるの!?」
パニック状態の女性が仁那のパーカーの裾にしがみつくようにしている。
「う、うわ、嫌よ、嫌だってば! 離して! 離せ離せ! 離せバケモン!」
凛太郎が自分の足首を掴んで離さないバケモノの顔をもう一方の足で必死に蹴り上げている。
その時、ふいに凛太郎の上が陰った。
仁那がハッとしたように凛太郎の名前を呼んだ。
「御免」
凛々しい声が響いた瞬間、銀色の強い輝きが朱の空気を裂くように一閃した。凛太郎の足を掴んでいた手首と、その持ち主であるバケモノの体が弾けるように霧散する。
格闘していた対象が急に消え、ぽかんと顔をあげた凛太郎は、夕陽に顔を染めて自分を見下ろす青年に気づいた。その手には、見事なまでの一振りの日本刀が握られている。
仁那がさきほど目を止めた、直垂姿の青年だ。
「無事か」
「う、うん……ありがとう、ございます……」
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