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「ちったあ男らしいとこ見せてくれよー」と言いながら、仁那はふと凛太郎の髪のあるものに気づいた。
「頭に何つけてんの?」
凛太郎がきょとんと頭に手をやった。
「……布?」
手にとったそれは、海水に少し浸かったものの、金糸の菊紋様の刺繍が美しい浅葱色の布の切れ端だった。一部ほつれてはいるものの、元はとても素晴らしいものだったと一見して分かる。
「なんか気持ちわる」
仁那は凛太郎の手の内の布を嫌なものを見るようにして目をすがめた。
「でもすごくいいものよ。こんな縫い方、今の機械じゃできない……」
体の芯を生まれた時に母親の胎内にでも残してきたか、いつも身をくねらせる凛太郎が珍しく背筋を伸ばしている。
凛太郎は、鶴岡八幡宮の宮司の血縁者だ。小さな頃から社伝の宝物などに触れる機会が多かったせいか、古美術品や骨董品に対しての造詣がなかなかに深い。凛太郎がそこそこの目利きであることは親などの周りの話から知ってはいた。
「……だいぶ古いけど、昔の着物の一部だと思うの……刺繍の縫込みもかなり緻密だし、すごく手がかかってる……」
ぶつぶつ言いながら凛太郎は仁那の隣に腰をおろしかけた。
「あ、バッカ、シャワー浴びてから座れよ。砂まみれなんだからさあ」
仁那が顔をしかめ、座りかけた凛太郎の尻を足で蹴る。
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