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仁那が振り向くと、凛太郎は一点を凝視して口を開けては閉めている。しかも目を見開いて歯の根を震わせていた。
さすがに仁那は眉をひそめて凛太郎のそばまで近づいた。
凛太郎は必死で視線だけを仁那と自分の足先との間を往復させた。
どうやら足先に何かがあるらしい。読み取った仁那は凛太郎の足首に視線を移して、それからくっきりとした両目を大きく見開いた。
「マジか……」
仁那の目には、凛太郎の足首を掴む赤黒いものが映った。
それは砂の中から伸びた人間の手らしきもののように見える。
「ま、マジ、え、気、気持ち悪、ど、どどどどどうしよ、どうしよどうしよ」
全身にぶつぶつと鳥肌を立てた凛太郎が喘いで、仁那にぎこちなく手を伸ばした。
その緩慢とした動きが凛太郎の足首から伝わったのか、砂の中から伸びた手がかすかに動いた。
鼻先を、潮の匂いにまじった魚の腐ったような生臭さがついた。
思わず一歩さがった仁那の耳に、さらに砂が崩れ、何かがせり上がるような音が聞こえた。
直後、女性の甲高い悲鳴が後方からあがった。
振り返ると、凛太郎と同じように尻もちをついた若い女性が恐怖の表情で前を凝視している。
そこには伏せた大きなお椀をかぶったような何か、いや人間らしき頭が砂の中から出ている。爛れて赤黒い、人間とは断定したくない何かだ。
「うわあああっ」
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