20人が本棚に入れています
本棚に追加
男の悲鳴があがった。一気に砂浜のあちこちで悲鳴があがった。
夕方まで残っていた海水浴客たちが一目散に砂浜から逃げ出す。とはいえ砂浜を走るのは容易ではなく、足をとられて転ぶ者も多い。
泣き出す声。そこに、ゴボッと砂を吐き出すような音が立て続けに重なった。同時に辺りを潮の匂いよりも腐ったような匂いが充満し始めた。
山の端に落ちかけた夕陽のせいで、空は不吉なほどの血の色だ。それに染まったわけでもないだろう、砂浜の至る所から得体の知れない、赤黒く爛れたものが湧いて出てきている。
ただ砂があまりに掴みどころがないせいか、地中から出てこようと手や顔をのぞかせてはいても砂が邪魔して動きはとても緩慢だ。
それでもパニックになった人々には、ただ逃げることしか頭にない。
海沿いの道路から急ブレーキの音や怒号が響いてきた。パニックのあまり134号線に右も左もなく飛び出した海水浴客が車にぶつかる。飛び出した人を避けた車が他の車や壁などにぶつかる。辺りがさらに騒然と混乱に陥った。
夏の明るい海辺が一転、怖気立つ赤黒いものの蠢く臭い砂浜へと様変わりし、恐慌に陥った人々が逃げ惑う。
最初のコメントを投稿しよう!