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唖然としながら周りを見回す仁那の目に映るその光景は、幼い頃から育ってきた湘南の夏の光景でも、多くの人が訪れる観光地の光景でもない。
「に、にににに仁那ちゃん! 嫌、嫌あっ」
凛太郎は必死で掴まれた足をばたつかせ、甲高い声で悲鳴を上げ続けている。
仁那は、凛太郎がパニックになっている姿に我に返ったように冷静になった。
「男だろ、自分でなんとかしろ、ボケ!」
仁那は顔を傲然とあげて凛太郎を一喝すると、辺りを見回した。
2、3m離れた場所で、腰を抜かして動けない年配の女性がいる。立ち上がろうともがくものの、力が入らないらしい。
そのそばから胴体を砂から引き上げつつある赤黒く爛れた背中が仁那の視界に映る。
「バケモノ」
仁那は舌打ちすると、素早く手近のパラソルのポールを引き抜き、女性の元に駆け寄った。その勢いのままバケモノの背中に野球のバットを振る要領で思い切り横に薙ぎ払う。
鈍い音が響いて砂浜にそのバケモノの上半身が倒れた。
ぶわりと腐った匂いが仁那の鼻を襲うと同時にポールを掴む両手にしびれが走り、暴力を振るった時の嫌な感触が手の先から体を走った。
「おばさん!」
「ダメ、腰が、腰、抜けちゃって」
「ナヨタロー!」
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