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同じ会社だった、一個上、野田圭介、好きだった、病気のことを何回も相談しようとした。でも、大きくなるおなかに彼は喜んだ、違うと言っても、信じてくれなくて。
男ができたんじゃないの?違う男のものだろうという女の話を真に受けた彼は、その女と一緒にホテルに入っていった。
悪びれるでもなく、私の目の前を堂々と、あの時の女の顔は忘れない。
勝ち誇ったような顔で、彼の腕に縋りつき、ざまーみろというような顔。
圭介も年貢の納め時だな。
結婚の噂はすぐに広まった、そこには私じゃない違う女がいた。
会社を辞めた。
引き留めてほしかった、ちゃんと話を聞いてほしかった。
女じゃなくなる選択肢を一緒に考えてほしかった。
口げんかする暇さえも私にはくれなかった。
もうどうでもよかった。
だから男はいらない。
だからメモ一枚でわかれた。
そう、決心したのは私だから…
次の日
「あのー?」
「いらっ」
そうだ、彼は知らない、私の事を。
息を整え声を出した。
「いらっしゃいませ」
黙々と仕事をする。
―すみません
「はい、いらっしゃいませ」
工事関係者の子、かわいい子だ、こんな子がガテン系か、お、いいのが浮かんだ。帰ったらすぐにアップしよう。
「はい、それではお昼ですね、確かに」
「あのー、清水さんてバイト?」
「パートよ?どうして?」
「若いかなーと思って」
「ありがとう、いいおばさんです、では確かに、お昼お待ちしております」
頭を下げる若い子。
視線に入ってきた彼、まだいる。そのまま引っ込む、誰かに代わってもらえばいい。
バックヤードの扉を押した。
「清水さん」
「恐れ入ります、関係者以外は入れませんので、どなたかとお間違えじゃありませんか?」
胸のネームプレートを指さす。
あー、そうか。
話がある、帰りにどこかで。
「ごめんなさい、彼とはもう終わったんです、もうお話することはありませんから」
「恐れ入ります、ここは関係者以外」
副店長が来てお客を外に出した。
「誰?」
もめごとかといって顔を出した人たち。
「元カレのお兄さんみたい」
「みたい?」
「よくわかんない、ありがとう、チーフ」
ごめんなさいね、なんて言いながら調理室へ入り、副店長にも後でありがとうと言っておいた。
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