第一小節 一人で生きる。

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それからも、野田さんは来てるけど、できるだけ接触しないようにした。 お客さんにも名前を覚えてもらえるのは嬉しいけど、あの若い男の子もほとんど毎日来てくれて、冷やかしだろうし。 パソコンを開き、書きかけの小説は、自己満足の物、誰でもいい、共感してくれる人がいてくれる、それだけで書き続けている。 そして、いつしかネームプレートも外した。すぐに出せるようにだけして。 休憩時間、外のダンボール置き場のそばにある、古い椅子に腰かけた。 「清水さん、今度の休みデートしません?」 見上げると、思い切り笑う、本部から来た男性。 前からアプローチはされていたけど、なんかなー面倒くさくて。 「できません」 「そっこー」 「ごめんなさい」 「でもフリーですよね」 「フリー?じゃないもん」 「エー彼氏さんいるんですか?」 「当たり前」 そう、その方が楽だから。 どうせ売り場に戻れば、会う人、出会う人からその話になるのだから。 スマホがなっている、どうぞお構いなく。 電話に出ると、肩手をあげごめんというようにして男性は売り場に戻っていった。 はあ。 「でっかい溜息、ねえ、清水さん本当にフリーじゃないの?」 フェンス越しにこっちを見る、あの子だ。 「おばさんからかって楽しい?」 「おばさんじゃないじゃん、いくつだよ」 「たぶんあんたのお母さんと同い年かもよ」 「冗談、あんなくそばばー、全然違うね」 「くそババ―誰のことだ?」 パコンとヘルメットを叩く音、ちゃんとかぶれと言われている。 「仕事しろ」 ハハハ、怒られてやんの。 頭を下げた、親方と言われた方、最初にお断りを入れた方だ、向こうの方も頭を下げた。 この炎天下、外での仕事は大変だよな。 今度、氷でも出たら上げようかな。 さて、こっちも仕事だ。 売り場に一歩出たらほら来た、副店長。 「彼氏いるの?」 「あのね、いくつだと思ってるの?」 パスんと何かで頭を叩かれた副店長、後ろには店長。 「富永、油売ってんじゃねえ」 「だってー店長」 こんだけいい女に、男の一人二人いないはずがない、早く仕事をしろといわれてやんの。 そーだ、早く仕事しろ。ふん。
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