第一小節 一人で生きる。

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「ただいまー」 六畳一間のワンルーム、ここが私のお城だ。 タバコもやめた、酒もやめた。 友人は、みんな気を使い始めると疎遠になった。 気を遣う?違うよね、体の話ができなくなったからだ、結婚、男、子供の話もみんなが口に手を当てた、だから、遠慮した。 結婚式の案内はぱったりとやみ、その代わり、年賀はがきにおめでたい話が来る、これもやめようかな。 薬は減ったけど、手放せない、痛み止め。 血液サラサラ、コレステロールを下げる薬、ホルモン剤、これもそろそろ終わる。 卵巣は一個残った、それ以外はすべて取ってしまった、筋腫で圧迫された内臓は瀕死の一歩手前、ここまで戻ったのは奇跡らしいけど、あーあ、何で死んじゃわないのかなー。 おなかに大きく残る傷と、元に戻らないたるんだおなかの肉。 別にもう誰にも見せるわけじゃないから、下半身の手入れなんかしなくなった。スカート履かないし。 「あんまりかな」 よし、明日は、脱毛クリームでも買うか。 その前に剃刀を手にした。 すね毛ぐらい剃っていこう。夏だし、ショートパンツぐらいは履きたいし。 隣からは、犬や猫の声、ペットは禁止じゃないけど、狭いのによく飼うよなと思いつつも、自分も小さな、小さなペットに癒されている。 「ね、うり、おやすみ」 からからと、車を回す音が鳴る、それを子守歌代わりに寝る。 ジャンガリアンハムスターを玄関に置いてきた、一番涼しいところ、今日も通し、朝から最後まで。 「いってきます」 彼の背中にはきれいに一本黒い線が見える、それがまくわ瓜を思い出させた。父親が狭い庭で作っていた野菜、呼ばれ、子供を抱き上げる父は・・・ さーて、仕事、仕事! おはようございますの声に一日が始まる。 朝礼をして、みんなが持ち場に散らばる。 「清水さんは社員にならないの?」 アルバイトの子が声をかけて来た。 「めんどくさいから、お金もさ、今じゃ保険はくれるから、そんなに変わらないしボーナスも期待出来ないしさ」 「それで、バイトか」 「でもほかは?金回りのいいところあるじゃん」 「めんどくさがりやなんだ、だからこれでいい」 ふーんなんていう学生アルバイト。
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