第一小節 一人で生きる。

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第一小節 一人で生きる。

 ざわざわとする大きな病院の待合室、四十人入るだろうか。ちょっとした別室の中は子供の泣き声と、やさしいピンク色で包まれている。 ここはとある病院の産婦人科。 名前を呼んでいく、看護師。ぞろぞろと診察室の中へ入っていく患者。 病院は嫌いだ、待ち時間が長い、予約していても待つときは待つ。 川柳にもなっている、待ち時間、半日まって診察一分。 清水さん。 やっと呼ばれた、立ち上がり、先生のところへ。 男の先生が嫌で、女先生を選んだ。 さっぱりとした感じで、くどくど言わないあたり、この先生ならいいと思った。 「先生、どうでしたか?」 「んー、やっぱり、取ったほうがいいかもな」 「全部ですか?」 あけてみないと分からない、ただ全部取らないということは、確実に、もう一回入院、再手術はすることになると言われた。 痛みは我慢できないくらい、そして、おなかには、子供がいるんじゃないかと思うほど大きくなっていた。 もう、二年通った、苦しい治療、高い治療も効果はあまりなかったが一時より進行が止まった、手術するなら今がチャンス。 ・・・こんな苦しい思いをするくらいなら。 きめた! 「とってください、つらい思いをするくらいなら、いっそない方がいいので、お願いします」 そして、母は泣いてくれた、女としての幸せはもうそこにはないと思ったからだと思う。 ―セックスは好きだった。 ―男もそれなりにいた。 本当に私のことを好きでいてくれた人もいたかもしれない。 でも、子供ができないと知って、みんな別れた。 だって、みんな子供がほしいっていうんだもん、はなからあきらめた、できにくいなと思ったのは二十一歳の時、おかしいと自分で思っていた。好きになっちゃいけないって言い聞かせ、私は遊ぶ方を選んだのだから。 罰が当たった。 そんなことを言っていたからかわからないけど、本当になった。 罰は当たった。 好きな人の子どもはもう…作れない… 二十九歳の誕生日、私は女ではなくなった。
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