レクイデーション

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レクイデーション

 仕事に集中できないことがあり、俺は五年前に離婚した。  最近伸びているIT事業部の部長職に任命され、様々なプロジェクトを行っているため、仕事の量が半端なく多く、家庭に使える時間はほぼ無かった。 気付いたら家に帰ることは月に一回くらいになっていた。  人によってはブラックだ、と言うかもしれないが、俺自身はかなりやりがいを感じていたし、屍を埋める勢いで熱中していたこともある。  そうした様々な要因が重なり合ったことが亀裂を生んだのだろう。 久々に自宅に帰ったときには、妻が書き置きのメモで、家出するという文字しかその家には残っていなかった。  子供はまだ一歳なのにどこに行ったんだ。  なぜ悩みがあるなら連絡してくれなかったんだ。  そんな考えが最初に出てくればまだ父親として最低限のことができたのだろうか。  俺はそのメモを机から掃い、パソコンを立ち上げて仕事を再開していたのだ。  それぐらい仕事以外には興味が持てなくなっていた。  後日、仕事から家に帰ったときには、妻が玄関で出迎えてくれていたが、その手に持っていたのは離婚届だった。  俺はカバンから印鑑を出し、ためらいもなく押した。     
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