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出来上がった絵に、老主人は不快感をあらわにした。
「……これは嫌味かい? わしが鳥籠の主を奪ってしまったことを責めているのかい」
「わたしはただあんたに縁起のいいものを描いただけさ。あんたの名前は『土屋』。五行思想であんたは『土』に属する。『土』と相生なもの、つまり相性がいいのは『金』。『金』に属する金属の鳥籠は幸運を呼ぶ」
それでも腑に落ちない様子。まぁ、無理はないか。
「扉を開けっぱなしにする必要はないと思うがね」
「言ったろ。効果がどういうものなのかは、あんたのその目で見てなって」
自信たっぷりに言ってやると、老主人は眉をひそめたまま首をかしげた。
それから丸一日経たないうちに、老主人から連絡がきた。朝だ。電話口の声は、もはや何をしゃべっているのかもわからないほどに興奮している。
何が起きているのかは、説明を受けなくてもわかっていた。それでも、仕掛けた以上、結果を実際の目で確かめることはこちらの義務だろう。
義務、とは我々を管理する政府が好きな言葉だ。
数ある省庁の中に、『陰陽寮』という、千年以上前から変わらぬ名称の組織があることは、まだほとんど知られていない事実だ。
「玄丸、行こう」
声をかけると、床にまるまって寝そべっていた黒い犬は、スッと身体を起こす。立ち上がったときにはもう、スーツ姿の、生真面目な青年秘書の姿になっていた。
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