優しい呪いの使い方

4/13
前へ
/13ページ
次へ
「アレは売んのかい」  束になった本を指さして尋ねる。見たところ、雑誌ではない。小説でもない。コミックのようだ。  奥の別の部屋へ進もうと、背中を向けて先を歩いていた老人が振り返り、ゆっくりと質問を飲み込んで、やがてうなずいた。 「新しめの漫画はね。でも二束三文だよ。でもマシだよ。小説や雑誌なんかは引き取ってもらえないからね」 「捨てるのかい?」 「欲しかったらあげるよ」  老人は高らかに笑った。 「最近の若い子は本なんか買わないし、そもそも読まないだろう? 何だっけ? ケータイ電話とかで無料で読めるやつもあるらしいしねぇ?」 「あぁ、あるね。インストールしたことはないが」 「あぁいうものが世の中に出てきちゃあ、わしらのとこみたいな古くからある本屋なんておしまいさ」 「そうかもね」 「この辺がもっと人通りの多い頃は、ふらりと寄って買っていってくれるお客さんも多かったがねぇ」  世の中が便利になれば、消えるものがある。一方が栄えれば、埃をかぶるはめになるものが現れる。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

62人が本棚に入れています
本棚に追加