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「アレは売んのかい」
束になった本を指さして尋ねる。見たところ、雑誌ではない。小説でもない。コミックのようだ。
奥の別の部屋へ進もうと、背中を向けて先を歩いていた老人が振り返り、ゆっくりと質問を飲み込んで、やがてうなずいた。
「新しめの漫画はね。でも二束三文だよ。でもマシだよ。小説や雑誌なんかは引き取ってもらえないからね」
「捨てるのかい?」
「欲しかったらあげるよ」
老人は高らかに笑った。
「最近の若い子は本なんか買わないし、そもそも読まないだろう? 何だっけ? ケータイ電話とかで無料で読めるやつもあるらしいしねぇ?」
「あぁ、あるね。インストールしたことはないが」
「あぁいうものが世の中に出てきちゃあ、わしらのとこみたいな古くからある本屋なんておしまいさ」
「そうかもね」
「この辺がもっと人通りの多い頃は、ふらりと寄って買っていってくれるお客さんも多かったがねぇ」
世の中が便利になれば、消えるものがある。一方が栄えれば、埃をかぶるはめになるものが現れる。
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