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優しい呪いの使い方
目が覚めるとそこには、わたしを食い殺さんとばかりに大口を開けたくちばしがあった。
ショベルカーかよ、と思った。
砂利や土砂をえぐるあの重機の、まさにえぐる部分が下は見慣れた格好で、上は逆さに引っくり返って重なった形でそこにはあった。
色はくすんだ黄色。上のショベルが若干下のものよりせり出していて、その先端がとがっていなかったら、突貫工事の重機が深夜にアパートの壁をうっかりぶち抜いたのかと思うところだ。
ぱっかり開けた喉の奥で、充血した真っ赤な喉仏が震えていた。
この大きさなら、わたしの頭を十個分くらいは容易に飲み込めるだろう。などと、暢気にかまえている場合ではないな。
「……臨・兵・闘・者」
まっすぐ正面から目をそらさぬまま、眠気でややボンヤリした頭で唱えはじめる。手は、暗闇の中、枕元をまさぐる。どこだ。
「皆・陣・列・在――――」
くちばしは、すでにわたしの額にかかっている。生臭い息。長い舌。
わたしの手がソレを見つけ出し、握り、その噴射口を相手の目があると思われるところへ向けたのと、腹の底から声をしぼり出したのとはほぼ同時だった。
「――――前!!」
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