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 ふと彼は、しゃがみこんで泣きじゃくる私の目の前に座り、私の手を取った。 「あなたの溜め息のように、言葉をくちびるにのせるのだね、揚羽」  はっきりとした発音。 「あなたのその愛らしい声は小さな土笛のようだけど」  うつむいた彼の、頬に影を落とす銀色の睫毛。その先に止まる光を見ていた。 「それでは想いが相手(ひと)に伝わらないよ」 だって、会話の仕方というものを私は知らない。眩しくて目を伏せると、また涙が爪先に落ちる。 「僕の名は来夜(ライヤ)。覚えて」  突然彼が言った。・・・え?なに?ライヤ? 「言ってごらん、ライヤ」 「ラ・イ・ヤ」  本当に、何と美しい名前。何と美しい響き。何とキレイな目。私を見ている。 「来夜」 「もっと大きな声で」 「ライヤ」 「覚えてくれたね」  柔らかな、笑顔。光がこぼれ落ちて来る。  胸が、ぎゅうっと痛いよ。二人きりのこんな眩しい世界で、私の心臓をこんなに不規則に滅茶苦茶に鳴らす人に出会ってしまったら、ただいっとき、すれちがうだけで終われない。
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