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再び私は逆水槽の部屋の中で目を醒ました。
ざうんざうんと。あの懐かしく愛しい音楽に包まれて。
部屋の片隅、花瓶が倒れている。中の水は空っぽで、床を濡らしてさえいない。赤いユリがしおれて死んでいる。
シーツに固く身を包み込み、私は部屋中が水浸しになってしまうのではないかと思う程まで、泣いた。
あの子に、もう会えない。そんなそんな。
何から何が夢なのか。もうわからない。
涙が尽きて、心を決めた。ベッドから這い降りる。小さくて白い私の、裸足の爪先。
私には靴がない。でも、このままで、外へ行くのだ。
迷いなど何もない。
あの痛みも苦しみも恐ろしいよ、でも。あの子のいない未来なんて…もうだめだ。死んだ方がマシ、とさえ思わない。死よりも必要不可欠なあなた。あなたを探し求めて生きる以外私に道はない。彼に、揚羽という名を与えられた以上。
ガラス窓に両手を当て、ゆっくりと上向きに力を加えて。
予想よりは軽く窓ガラスがずれて。同時にものすごい勢いで、水流が、来る。私を呑み込む。でも。
大丈夫。私は絶対に死なない。あなたと出会ったから。
《It's a biginning.》
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